このコラムでは中台関係を見る場合に重要なキーワードとなる「一つの中国」について簡単に紹介します。
1 中国の立場
中国が主張する「一つの中国」とは、「世界に中国はただ一つであり、台湾は中国の不可分の一部である。中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」というものです。
これは「一つの中国」原則と呼ばれ、多くの国がこの原則を「承認」しています。
日本語の「原則」という言葉には例外を認めうるというニュアンスを含むことがありますが、中国語の「原則」は特に政治で使われた場合、一切の例外を認めないという強い意味合いになります。
2 米国の立場
米国は「中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府」であることを「承認(recognize)」する一方、「世界に中国はただ一つであり、台湾が中国の不可分の一部」であることについては、中国の立場を「承知(acknowledge)」するとしています(1978年の米中共同声明)。
これは「一つの中国」政策と呼ばれ、米国側の文書では“One China principle(「一つの中国」原則) ”と“One China policy(「一つの中国」政策)”と区別されて表記されます。
日本の立場も米国同様に後者を「承認」、前者は中国の立場を「十分理解し尊重する」としています(1972年の日中共同声明)。
3 台湾の立場
台湾では各政党によってスタンスが違います。
それは「九二共識」を認めるか否かによって変わってきます。
「九二共識」とは、1992年に中国共産党と国民党政権の間で「一つの中国」について合意したとされるものです。日本では「92年コンセンサス」などとも呼ばれます。
「九二共識」は口頭で合意したとされ、正式な文書がないことから民進党はこれを認めていません。
一方、国民党は「九二共識」を認める立場を取っています。
ただし、国民党が主張する内容は「双方とも「一つの中国」を堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」というものです。
その解釈は「台湾は中国の不可分の一部であるが、中国を代表する唯一の合法政府は中華民国である」というものです。
これは「一中各表」(一つの中国について各自が表明する。)と呼ばれます。
これに対して前述のとおり中国の「九二共識」は、「一つの中国」原則であり、中国を代表する唯一の合法政府は中華人民共和国です。
つまり、中国を代表する唯一の合法政府が「中華人民共和国(中国)」なのか、「中華民国(台湾)」なのかをめぐって、両者の主張は一致していません。
しかし、中国は、国民党が少なくとも「一つの中国」を認めているため、表立って国民党の「一中各表」を批判していません。